薄花色の休み時間

美術館とか、本とか、映画とか。愛しているものたちについて。

「百円の恋」と八円の愛について

やっと観た。アマゾンプライムで。

この映画は「崖っぷち30代の青春賛歌」である。

百円の恋 [DVD]

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歌もいいんだよ。クリープハイプ最高。 


クリープハイプ「百八円の恋」MUSIC VIDEO

 

「私、100円の女だから」

32歳、引きこもりニートのイチコ。妹が離婚して実家に帰ってきたことをきっかけに

家を追い出されるようにして一人暮らしを始める。

100円均一のコンビニでバイトを始めるが、イチコを雇ってくれるようなコンビニだけあり、勤務先の人間もクズばかりである。それにしても、

 

本当になんでこんなにクズしか出てこないんだろうか

と思うほど、兎に角この映画は登場人物がクズのオンパレードである。

イチコを酔わせてホテルに連れ込むおっさん、コンビニの廃棄を狙ったあげく強盗を働くおばさん、女の家に転がり込んだせに浮気して捨てる男、上から目線で何かにつけバイトをバカにしてくる社員。。。

いっそ清々しい。

 

「なんでボクシングやってんだよ」

そんな中で、自分を捨てた男に代わってボクシングを始めたイチコ。

「試合の後に、肩を叩きあったり、抱き合ったりそういうのがなんかいいと思った」と答える姿が染みる。彼女は孤独だ。

次第にボクシングにのめり込んでいくイチコ。

初めての一人暮らし、仕事、彼氏との別れの中でボクシングはストレスのはけ口にもなっていた。

 

一度だけでいいから勝ちたかった

イチコは変わり始める。

笑顔が増えたり、体が引き締まってきたり、髪の毛を結って顔を出したり。

次第に家族やボクシングジムの中に新しい居場所ができていく。

 

イチコの試合前のシーンは象徴的だ。

「青木ボクシングジム」の名前を背負い、ユニフォームには実家の弁当屋「さいとう亭」の文字。働いて居た「コンビニのBGM」を流し、初恋の相手が教えてくれた「ボクシング」の試合に臨む。

彼女の全て。

 

32歳で、実家は弁当屋で、コンビニバイトくらいしか出来なくて、男に捨てられて、そんな自分を丸ごと受け入れて、全てを引っさげて試合に臨む姿は美しい。

 

しかし結果はボロ負け。

イチコの遅れながらの青春はこれで終わったのであった。

 

百円の恋に八円の愛ってわかってるけど

結局イチコは何者かになるわけでもなく、クビになったコンビニの代わりに

実家の弁当屋を手伝う平々凡々周回遅れの人生なのだった。

 

周りから見たら見向きもしないような人生かもしれないけれど、

イチコの踏み出した一歩は大きいし、人生を変えた。

 

でも、人生は楽しいことだけでなく、痛みも伴う。

クリープハイプの「誰かを好きなることにも消費税がかかっていて」というのは

言い得て妙だ。

 

彼との幸せを知ることは、別れる時の辛さを知るのと同義で、

ひとつ何かができるようになることは、誰かに負けることの同義なのだ。

 

これから始まる毎日は映画になんかならなくても

 

これからイチコはどうなるのかな。

やっぱりあの男とよりを戻すんだろうかな。

 

これからのイチコの人生も、私の人生も映画になんかならないけど、

そうやって光と闇を抱えて生きてくんだろうな。

 

明日も頑張ろう。