薄花色の休み時間

美術館とか、本とか、映画とか。愛しているものたちについて。

児童文学「緑色の休み時間」とZONE「secret base 〜君がくれたもの〜」に思いを馳せる

小学生(中〜高学年)くらいの成長物語って、美しいよねという話。

イギリスを舞台にした小説や映画は沢山あるけれど、忘れられない1冊がある。

小学生の頃に読んだ「緑色の休み時間」だ。

 

少しだけあらすじを書きたい。

小学6年生のコウタは、母・妹と共に、夏休みを使って1ヶ月のイギリス旅行に訪れる。イギリスに引っ越してしまった幼馴染のチサトに会いにきたのだ。

ウェールズ広大な自然で過ごす中、コウタは一人の少年ランダルと出逢う。英語を話せなくても、友達になっていく2人。

帰国が近づいたある日、ランダルの家に招かれたコウタとチサト。古城に住む彼の家の中を少しだけ見学していくはずだったが、ひょんな事から3人は古城の中から出られなくなってしまう・・・。

 

異国情緒と、冒険と、忘れられない夏

少年たちの若さが、ウェールズの自然の描写とマッチしていて、読むたびに子供の頃のワクワク感を呼び覚ましてくれる。

夏の冒険を主軸に、人生の喜びと悲しみがハーモニーを奏でる清らかな児童文学だ。

 

健やかであるということ

全体を通して言えば、この物語の本当の主人公はランダルとも言えるかもしれない。

ランダルは中々難しい家庭の事情を抱えているが、コウタとチサトの交流の中で、偶然にも消息不明だった母親の居場所を知ることとなる。

小学生の頃は、この辺の家庭事情がイギリス文化ならではの問題と結びついていることはよくわからなかったのだが、今ならしみじみと感じることができる。

複合的なテーマを扱っているにもかかわらず、小難しくならないラインを見極めている物語の構成も見事だ。

 

 「ランダルから見たら、ぼくの生活なんて、ほんとうに平凡だな。」コウタはつぶやいた。

「平凡がいちばんいいってことだってあるわよ。」チサトがぽつんといった。

 

物語は一貫してコウタの視点から語られ、必要以上に踏み込んだ記述はない。コウタもまた、子供なりに理解できている部分とそうでない部分があるのかもしれない。

 

本の最後を見ると、この本は1988年、今から30年近く前に出版されたものらしい。

今この歳になって読むと、むしろ物語で語られなかった人のことを考えてしまう。

戦争と冷戦の時代を、古城を守りながら生きるとはどのような気持ちなのかとランダルの祖母に思いを馳せたり。

あるいは、30年前の当時、父親の仕事の都合でイギリスに転校すると決まった時はどんな思いだったろう、とチサトを想ったり。

 

みんな何かを抱えながら生きている。そんな当たり前のことを当たり前に感じて、子供が一つ大人になる姿は、いつだって美しいのだ。 

secret base ?君がくれたもの?

secret base ?君がくれたもの?

 
いつも何度でも

いつも何度でも

 

 脳内イメージソングはこの辺。これも小学生の出会いと別れ、そして成長。

幼く無邪気なだけの季節は終わり、でも中学生の思春期にはまだ早い、ほんの一瞬の美しさをいつも想う。